【姫路城】

お昼ごはんは、丹波に寄り道をして、そばを食べた。黒豆が入っている名物で、期待通りに満足の味だったが、彼は迷わず、いや、何を血迷ったかカツ丼を満足そうに頬張っていた。
その後、姫路城へと車を走らせた。

姫路城に着いたのはお昼をだいぶ過ぎた頃だったが、日はまだ高く、温まりきった空気と容赦ない日射しが、殺人的な気温をたたき出していた。公共の駐車場は広く、空きスペースも多かったものの、日陰となる部分はすべて優先的に車が止められていた。空いているのは日射しを遮るもののないど真ん中に限られている。
「エアコン止めたら10分で死ぬんじゃないかな、ぼく。思うんだけど、これは未必の故意というやつだよね。うん。こいつらはみんな僕らが死んでもいいと思ってるに違いないんだ」

「着いた、ほら行くぞ」僕は彼の戯言を無視してエンジンを切って車を降りた。
返答を無視したものの、彼の言うとおり今日は本当に暑い。確かに誰かが倒れても笑えない気温になっている。
車ひとつ降りるのだって相当な気合が必要だろう。僕は意を決してドアを開けて外に出た。
彼も意を決したように車から飛び降り、城を目指して歩き出そうとしたものの、すぐに肩が下がって、体全体をふらふら揺らし振り返って言った。
「あの、僕にはあの国宝が遥か遠くに見えるんですけど」
「ああ、頑張ろう」僕にはそれしか言うことはない。彼はそんな僕の台詞に覚悟を決めたようで、「いざ」と呟き、僕らは姫路城へと歩き出した。切り替えが早い彼の思考回路は扱いやすく、付き合いやすい。
それから確かに、いざ、という言葉が今は似合うなあと思った。


城はどれも好きだと思う。本丸へと到る過程がおもしろい。計画に求められているのは、いかに向かいくる敵を不利な状況に追い込むか、ということに尽きる。攻められにくく、討ちやすい空間を求めた結果が、高い地形を選び蛇行した迷路のような動線を描かせる。高い塀で道を挟み、少し進む度に敵を押し戻すための門を設ける。もちろん上り坂。息が切れる。僕らは遥か手前から戦意喪失気味だけど。
塀には穴があいている。三角のものや四角のもの菱形のものなどたくさんの穴が開けれているが、どれも坂下側に向かって穴が小さくなっている。撃ちやすく、撃たれにくいためだろう。そういった目的に対して直接的に具現化された計画は、設計者の思考をまじまじを見てとることができる。
愚直とでも言おうか。直接的すぎて、僕らの感覚では恥ずかしさすら覚えてしまう。だがそれこそが、抽象的、感覚的にという現在の当たり前の考え方よりも清々しく感じる要素になっているだと、僕は思っている。
また、お城の住人がいつもうねうね通る手間を考えて、ちょっとした早道を用意していたりするのもいい。設計図とにらめっこしている光景が目に浮かぶ。

「もう一回蛇行させたいのでござるが」

「うむ、あいやだがしかし、それでは早道の位置を変えなければいけんとですな」

「どうしたらいいのであろうか、いやはや難しいで候」

「相成りませぬなぁ、云々」

「もう夜も更けて参った。明朝には主任に図案を見せなければいけないというのに」

「嗚呼」
明らかに言い回しがおかしい。しかし僕の知識ではこれが精一杯だ。非常に残念だ。ここは削除しようかとも迷ったが、もったいないので恥を承知で残しておこう。旅の恥はなんとやらだ。

城の見学で、いつも不満に思うのは城中である。だいたい城の中というのは展示室を兼ねており、展示を見ながら天守まで上っていくようになっている。だから城の中は、背の高いパーティションで空間が仕切られていることが多く、それが好きではないのである。どうも空間の特異性が見えにくいし、身体的な感覚で空間を把握することがしにくい。もちろん資料は大切だろうが、空間を直接体験できるのだから、そこを純粋に味わいたいと思うのは、建築好きのエゴなのだろうか。

そういえばと隣の友人を見てみると、彼はすでに展示に興味なくしているようで、周囲をきょろきょろ眺め、僕に向かって一言呟いた。
「いやぁ、内容がないねぇ」
それは展示か。それとも文章のことか。
ちゃんちゃん。



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.2007.08.26
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